ウェブ時代の出版戦略について

本との出会いは「検索」に変わった

ネットで本を買うことが当たり前となり、街の本屋さんが次々になくなっていく今、Kindle本を出す個人は「どんな出版戦略を取ったらいいのか」について考察します。

以前は書店や図書館、広告などが本との主な出会いの場でしたが、今では通販サイトの検索窓に「求めている内容に関するキーワード」を打ち込み、表示された結果の中から本を選ぶようになりました。

この変化は、本との初めての出会いが検索結果になったことを意味します。このことから、検索されそうな言葉をタイトルに入れることの重要性を解説します。

検索は無慈悲な論理の女王:タイトル戦略

Kindle本の商品ページを含め、ウェブページはHTMLで書かれています。検索エンジンは、HTMLタグの中でも特にtitleタグやh1、h2、h3といった見出しタグに記述されたテキストを重要視します。

たとえば、Googleで検索した際の結果として表示される文字は、ウェブページにおけるtitleタグの文字です。この重要視される箇所に、本の内容を求めている人が使うであろうキーワードを盛り込むことが、購買層に見つけてもらうための大事な戦略となります。

例として、殺人事件の小説を出す際、単に抽象的なタイトルにするよりも、「精神病質 -×××連続殺人事件-」のように具体的なキーワードを加える方が、「殺人事件もの」を読みたい層に見つかりやすくなります。

本との出会い方、探し方が変わった今、それに合わせた本の「売り方」を考える必要があります。

キーワードは検索者の夢を見るのか:過去作の検証

ここからは、過去に出版したKindle本のタイトルからキーワードを抽出し、Google キーワード プランナーで需要を確認した、私の出版反省会です。

『ソーシャルゲームプランナーのお仕事』の検証

「ソーシャルゲームプランナーのお仕事」のキーワード需要の画像

キーワード:「ゲームプランナー」。需要は1,000~1万、競合性は中。Kindleストアでの競合は51件でした。ソシャゲーに絞った時点でターゲット層は限定されますが、内容の希少性からたまに読まれています。

『気持ちが楽になるかもしれない考え方』の検証

「気持ちが楽になるかもしれない考え方」のキーワード需要の画像

キーワード:「気持ちが楽になる」(長すぎ)。需要は100~1,000、競合性は小。需要が少なすぎますが、気持ちの切り替え本を必要とする人は一定数おり、出した当初は読まれました。Kindleストアでの競合は8件。

『あなたは、どっち?』の検証

「あなたは、どっち?」のキーワード需要の画像

キーワード:「どっち」(失格)。需要は1,000~1万、競合性は低。キーワードとして機能しないため、ダントツで読者が少なく、“かわいそうな子”です。Kindleストアでの競合は38件。

『アフィリエイトを始める人が読む本』の検証

「アフィリエイトを始める人が読む本」のキーワード需要の画像

キーワード:「アフィリエイト」。需要は10万~100万、競合性は中。市場規模とターゲティングのしやすさから、今のところ一番読まれている本です。関連キーワードの「アフィリエイト 始める」に沿うタイトルにしたのが大きかったと考えられます。Kindleストアでの競合は497件。

『就職できないなら諦めろ』の検証

「就職できないなら諦めろ」のキーワード需要の画像

キーワード:「就職できない」。需要は1,000~1万、競合性は中。Kindleストアでの競合は6件でした。「就職」だと1,000件以上の競合があるため、ニッチなキーワードで攻める戦略の有効性を示唆しています。

タイトルの重要性と「異世界」キーワード検証

タイトルの話ばかり書いていますが、書いていない言葉は検索で引っかからないため、本の内容説明にも力を入れた方がいいでしょう。

「異世界」のキーワード需要の画像

「異世界」のキーワード需要は1万~10万、競合性は低に見えますが、Kindleストアで「異世界」で検索すると3,000件以上が出てくるレッドオーシャンです。キーワードの需要だけではなく、Kindleストア内での競合数も考慮に入れるべきでしょう。

個人が趣味で本を出すのなら、好きなものを書きつつ、タイトルを考える際にキーワード需要から候補を考える程度が良いかもしれません。需要があるキーワードを選びつつ、そのキーワードから連想される内容を良い意味で裏切る、という戦略もアリかと思います。

オマケ:出版社の事情と電子書籍のメリット

出版社の事情と作家の立場を知ることで、個人が電子書籍で出版するメリットが見えてきます。

橘 玲氏の著書から見る出版流通の問題点

橘 玲さんの『新版 お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 知的人生設計のすすめ』では、古い問屋制度(取次)が問題点として取り上げられています。定価販売の強制と、無制限の返品が可能な構造により、出版社は本を納品するだけで、売れていなくても取り分(70%)を先に受け取れます。

これにより、出版社側は「本をたくさん出版し、部数を多くする」ことで、資金繰りを行う動機が生まれます。逆に取次は返品率を下げる必要があるため、結果的に多くの種類の本が作られる一方で、一冊あたりの販売部数は減少し、作り手が受け取る額も少なくなりがちです。

わかつき ひかる氏の著書から見る作家の立場

わかつき ひかるさんの『生業としての小説家戦略 専業作家として一生食っていくための「稼げる」マニュアル54』では、未払いやパワハラなど、出版社とのトラブル事例や対処法が書かれています。

作家が原稿を納品する行為は業務請負契約にあたり、下請代金の支払い遅延には年利14.6%の金利を請求できるといった知識は、出版社から本を出したい人にとって参考になるでしょう。著作権の適用範囲など、意外と知られていない情報も解説されています。