ウェブ時代の出版戦略について

ネットで本を買うことが当たり前となり、街の本屋さんが次々になくなっていく今、Kindle本を出す個人は「どんな出版戦略を取ったらいいのか」について考えてみたページです。

検索畑でつかまえて

以前なら、本との出会いは図書館や本屋さんでした。雑誌やテレビ、新聞、電車の中吊り広告で本の存在を知ることもありましたが、個人的には本屋さんで初めて“その本の存在を知る”ことが多かったです。漫画などは、友達から「面白いから、読んでみて」と薦められ、知ることも多々ありましたが……。

今では、通販サイトの検索窓に“求めている内容に関するキーワード”を打ち込み、表示された結果の中から本を選ぶようになりました。本との初めての出会いは、検索結果になったのです。

出会いと言っても、物体として向き合うこともなくなりました。電子書籍じゃないと買わなくなってしまったので……。その理由は、紙の本は置き場所に困るし、時間が経てば劣化するから。

劣化と書くと大げさに感じる人もいるかもしれませんが、私は古い紙を触ると痒くなる体質でして、古い本を読みたいときには本当に困っているのです。古い紙に湧いたダニが原因じゃないかと思い、電子レンジで本を温めたことがあるくらい、本当にダメなんですよ。

話がそれました。本との出会いが検索結果になったということは、検索されそうな言葉をタイトルに入れるのが重要になる。そんな風に思いまして、次の項目ではHTMLの解説を交えながら説明しています。

検索は無慈悲な論理の女王

「出版戦略とHTMLに何の関係があるんだよ」と思うかもしれませんが、ここはひとつ疑問はしまって読んでみてください。このページを含め、ウェブページはHTMLで書かれています。本の商品ページもHTMLで書かれているということは、HTMLにマッチした本であることは強みと言えます。

抽象的な表現になってしまったので、具体的な例を出してみましょう。Googleの検索窓に「本」と入れて検索すると「本・書籍 | Amazon - アマゾン」「楽天ブックス: 本の通販 オンライン書店」「本 - Wikipedia」といった結果が出ます。この結果として表示される文字は、HTMLタグで言うとtitleタグになります。titleタグとして書かれた文字が検索結果に出る文字となり、そのページ閲覧時にはブラウザのタブに表示される文字となります。

ここで、AmazonのKindleストアを見てみましょう。作品Aのtitleタグは、「作品名A | 著者など | ジャンル | Kindleストア | Amazon」となっています。当然だと思うかもしれませんが、作品タイトルが最初になっています。そして、大見出しであるh1タグにも作品名。残念ながら、h2タグは「登録情報」でした。

HTMLの知識がある人なら、私が言いたそうなことを想像できるかと思いますが、そうじゃない人には「なんだコイツ」状態でしょう。なので、説明します。HTMLには使用頻度の高いpタグで記述される文章よりも、重要視される箇所があります。それがtitleタグであり、h1・h2・h3といった見出しタグなのです。

「お金持ち」という単語を一ヵ所だけに記述する場合、pタグで書くより、titleタグやh1タグに書いた方が、「お金持ち」で検索したときに引っかかる可能性が高くなります(検索アルゴリズムが今のままなら)。

つまり、その本の内容を求めている人が、本を探す際に使うキーワードを、本の題名にすることが大事。そんな話です。

AmazonのKindleストアだけじゃなく、多くの通販サイトでtitleタグやh1タグに商品名が入っています。ブログの題名だって、titleタグになります。そんなキーワードとして強化されるポイントを逃す手はありません。

仮にサイコパスが連続殺人をする小説を出すとして、「精神病質」というタイトルで出版するより、「精神病質 -×××連続殺人事件-」とした方が、「殺人事件もの」を読みたい人に見つかりやすい。「精神病質」だけだと、心理学系の本を探している人にしか見つけてもらえず、購買層に届きづらいみたいなことです。

本との出会い方が変わり、探し方も変わるのなら、それに応じた本の売り方がある。私は、そんな風に思います。まぁ、こんなのを気にせずとも「おすすめ 小説」とかでピックアップされるようになれば、いいんですけどね。

キーワードは検索者の夢を見るのか

ここからは私の出版反省会です。過去に出した本のタイトルから、キーワードになるものを抜き出し、Google キーワード プランナーで需要を確認。それで、ああだこうだ考えてみました。

「ソーシャルゲームプランナーのお仕事」のキーワード需要の画像

最初に出した本「ソーシャルゲームプランナーのお仕事」のキーワードを「ゲームプランナー」として、需要を見てみました。1,000~1万で競合性が中とは、そこそこ需要があって狙い目に思います。Kindleストアで「ゲームプランナー」で検索して出るのは51件。とはいえ、同一シリーズが山のようにありますので、著者数は多くないです。ゲームプランナーと言えば、コンシューマーを目指す人が多そうなので、ソシャゲーに絞った時点でターゲット層には限界があるかも。でも、そうそう書ける人がいない内容なので、たまに読まれています。

「気持ちが楽になるかもしれない考え方」のキーワード需要の画像

「気持ちが楽になるかもしれない考え方」のキーワードを「気持ちが楽になる」として、需要を見てみました。キーワードにするには長すぎですね。1,00~1,000で競合性が小は、需要が無さ過ぎて厳しい。でも、それはキーワードが長すぎるから。気持ちの切り替え本を必要とする人は結構いるので、出した当初は割と読んでもらいました。この手の本は次々に出るので、埋もれるのも早いですけど。Kindleストアで「気持ちが楽になる」で検索して出るのは8件。

「あなたは、どっち?」のキーワード需要の画像

「あなたは、どっち?」のキーワードを「どっち」として、需要を見てみました。タイトルにキーワードらしいキーワードがない本作。1,000~1万で競合性が低なので、検索数の割にライバルがいない感じ。というか、何かを示す単語じゃないので、キーワードとしては失格。今のところ、ダントツで読んだ人が少ない。まったく読まれない“かわいそうな子”。Kindleストアで「どっち」で検索して出るのは38件。

「アフィリエイトを始める人が読む本」のキーワード需要の画像

「アフィリエイトを始める人が読む本」のキーワードを「アフィリエイト」として、需要を見てみました。10万~100万で競合性が中なので、他の本のキーワードよりも検索されています。市場規模とターゲティングのしやすさもあってか、今のところ一番 読まれている本。試し読みする人のことを考え、冒頭を見たら最後が気になるように書いています。また、関連性の高いキーワードに「アフィリエイト 始める」とあったので、それに沿う感じにタイトルを決めたのが大きいかも。Kindleストアで「アフィリエイト」で検索して出るのは497件。

「就職できないなら諦めろ」のキーワード需要の画像

「就職できないなら諦めろ」のキーワードを「就職できない」として、需要を見てみました。1,000~1万で競合性が中。Kindleストアで「就職できない」で検索して出るのは6件。「就職」だと1,000件以上。ラインナップを見て思うのは「そりゃ、四季報を買うよね」ってこと。

アフィリエイターに札束を

どこかで聞いたことがあるような、それでいて変な項目名をつけてきたのは、ウェブ時代はタイトルが大事だとしながらも、「なんだ、この本は」と思わせるタイトルが減るのは、寂しいという私の気持ちを表してのことです。

タイトルの話ばかり書いていますが、書いていない言葉は検索で引っかからないので、本の内容説明にも力を入れた方がいいでしょう。出した本の説明文が短い、私が言うことじゃないですけども。

「異世界」のキーワード需要の画像

ついでに「異世界」のキーワード需要を見てみました。1万~10万で競合性が低なので、狙い目っぽい気がします。しかし、Kindleストアで「異世界」で検索して出るのは3,000件以上。レッドオーシャンじゃないですか。もう飽和状態ですかね。

ちなみに、関連性の高いキーワードには、コミック、漫画、大人、おすすめ、面白い、ファンタジーがありました。ということで、『おすすめコミックを紹介していたら、作品世界に転移してしまったので、ファンタジーな異世界で面白い大人を目指してみた』というタイトルはどうでしょう?

冗談はさておき、個人が趣味で本を出すのなら、好きなものを書いて、そのタイトルを考える際に、このキーワード需要から候補を考えるくらいですかね。やるとしても……。需要があるキーワードを選びつつ、そのキーワードから連想される内容を良い意味で裏切る。そんな感じもアリかと思いますが。

出版社の事情

以下はオマケです。出版社の事情を知り、作家の立場を知れば、電子書籍で出すメリットも見えてきます。

新版 お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 知的人生設計のすすめの画像

橘 玲さんの『新版 お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 知的人生設計のすすめ』では、出版流通の問題点として古い問屋制度が取り上げられています。

その内容を書く前に、前提として定価販売のことを少し。独占禁止法の適用除外⇒販売価格が固定。なので、書店は定価販売が強制され、値引きして在庫を処分できない。故に、好きなだけ本を返品可能に。

本の流通は、出版社が作る→印刷所から取次(問屋)→全国の書店。この際、分け前が出版社が70%、書店25%、取次5%になっていると、大手や老舗の出版社は、本を納品した翌月に取り分の70%を取次から受け取ります。その半年後、取次は返品率に応じ、余分に払った分を出版社に請求します。

こんな構図になっているので、本を出せば無利子で資金を借りているのと同じ状況が作れるわけです。先の返品率分だけ、売れていないのに、手元に資金が入るわけですからね。取次は非上場企業で、株式の大半を大手出版社が保有しているそうです。

出版社側の事情としては、「本は、たくさん出版」「部数は多く」となります。作って取次に渡した数だけ、お金が手元に来ますからね。逆に取次は「返品率を下げる」のが大事になります。売れないのに渡すお金が大きくなるので。

書店は売れれば利益になりますが、在庫として抱えると取次への支払いがある。なので、一定期間に売れなかった本は返品します。取次は返品率が上がると困るので、販売実績に応じて注文を減数しますから、予想外に売れた本が見つからない現象に繋がることも。

こうして、取次は返品率を気にして、1点当たりの仕入れを少なくします。すると、資金繰りに困る出版社は、出版する本の種類を増やして、取次から資金を得ようとする……。1点あたりの部数で稼げないなら、出す本の数で稼ごうとするので、作業量だけは増えていくでしょう。

出る本の種類が豊富になるというメリットはありますが、1点あたりの販売部数が減るでしょうから、作り手が受け取る額も……。

生業としての小説家戦略 専業作家として一生食っていくための「稼げる」マニュアル54の画像

わかつき ひかるさんの『生業としての小説家戦略 専業作家として一生食っていくための「稼げる」マニュアル54』では、未払い、自己満足のための修正依頼、怪文書へのサイン要求、パワハラ編集、経理や会社のせいにする嘘つき編集が出てきます。また、そういった人への対処法も書いているので、出版社から本を出したい人には参考になるかも。

著作権の適用範囲なども解説していますので、編集者がタイトルを変えるのは侵害じゃない、あらすじやコンセプトはは適用外と聞いて意外に思った方は、チェックしてみた方がいいでしょう。

ちなみに、個人事業主である作家が出版社から依頼され、小説という商品を納品する行為は業務請負契約に当たるそうです。下請代金の支払いを遅延すれば、下請代金支払遅延防止法の規定による金利:年利14.6%を請求できます。