「偽物だから安いのか?」を考える

「安いから、偽物じゃない?」という発言を耳にし、ふと思ったことがあったので書いています。確かに、相場よりも大幅に安かったら、本物とは考えられないでしょう。安いのには理由がある。訳も無く安いハズが無い。タダより高いものはない。

そう、訳があれば人は納得する。量産化によって安くなる、人件費が安い国で作っているから安くなる、流通の中抜きで安くなる、在庫処分のセールで安くなる等々。耳慣れた安い理由は信じやすいですが、人によっては聞き覚えのない“安い理由”もあるというもの。それが並行輸入ではないかと思い、解説してみることにしました。知っている方はスルーしてください。

知らない人の為の並行輸入

海外旅行でブランド品を安く買ってきたと自慢する人を見たことはないでしょうか。「海外に行ってまでブランド品を買うのかよ」「せっかく海外に行ったんだから、国内じゃできないことをしたら?」と思う人もいるかもしれません。でもまぁ、楽しみ方は人それぞれ。

実際、日本国内よりもブランド品が安い国は存在し、国内では考えられない価格で同じ商品を購入することができます。その割引額に圧倒的な“お得感”があり、“賢い買い物をした”という満足感が得られるので、ブランド品を買う為の旅行がやめられない人もいると聞きます。

では、なぜ安いのでしょう。免税? それもありますが、他の理由も考えられます。先に「人件費が安い国で作っているから安くなる」という理由を書きました。日本国内で生産するよりも、海外の工場で作った方が安くなるので、日本の企業が海外に生産工場を持つのは珍しい話ではありません。そのせいで、海外に技術が流出している面もありますが、そうしなければ価格競争に負けていたかもしれません。

この人件費の安い国でブランド品を販売する場合、日本と同じ定価にしても売れるでしょうか? 賃金に大きな差があるのなら、同じ定価にしたら手が届かなくなる可能性が大。中には、大金持ちもいるでしょうが、それではターゲットを絞り過ぎです。それに、商品のアフターサービスや正規販売店の運営に費やす額も、人件費が安い国と高い国では違います。広告費なんかは、もっと顕著かもしれません。

だから、その国に見合った定価をブランドは設定します。勿論、商品自体は同じなので本物になります。これに関しては「安いから、偽物じゃない?」とは言えないのです。この定価の差を商売にすること。自国よりも定価の安い国でブランド品を仕入れ、国内定価よりも安く販売する、それが並行輸入なのです。

並行輸入品と正規輸入品の違い

同じブランドの同じ商品であっても、英語圏で販売するなら取扱説明書は英語にするでしょうし、中国語圏なら北京語や広東語を用いるでしょう。ゴルフクラブなどは、人種による体格の違いやニーズなどを考慮に入れているかもしれません。US仕様のシャフトは重くて硬いけど、日本仕様は軽量化して柔らかい等々。化粧品の場合も、パッケージや成分が異なることがあります。

また、特定の国でしか販売されていない商品もあり、そういったものは並行輸入で手に入れるほかありません。「国内未入荷モデル」なんていう書き方をしているのがそうです。未入荷モデルは単に発売がまだなだけの場合もありますし、海外限定モデルだから入ってこない場合もあります。国内に代理店が無いロレックスのディフュージョンブランド「チュードル」なんかは、海外で販売されていた物を手に入れるほかありません。

並行輸入品の仕入れルートは「定価の安い国外の正規店等で買う」→「国内で販売する」というのは、何となくわかってもらえたかと思います。対して、正規輸入品はメーカーのある国などから、日本の輸入代理店を経由して仕入れています。基本的には、定価で販売することが義務付けられているハズです。

並行輸入品には「安い」というメリットがあります。正規輸入品のメリットは「国内モデル」だという点に尽きます。まず、取扱説明書が日本語です。ブランドによっては、並行輸入品のアフターサービスを断っているところもあるので、そういう意味での安心感はあるでしょう。時計で言うなら、フランク・ミュラーがそうだったと記憶しています。

ちなみに、保証もメーカーのものになります。並行輸入品の保証は、購入店独自の保証になるでしょう。とはいえ、購入店経由で修理に出されたものが、結局はメーカーで直されることも少なくありません。ブランドによっては、自分のところで作った商品は、販売経路に関わらずチェックしたいところもあるのです。並行輸入潰しを考えるブランドもあれば、共存を考えるところもあるという複雑な業界事情があるので、ブランドによってメリット・デメリットは異なります。

偽物は買ってもいけないし、売ってもいけない

偽物を販売していたことが明らかになれば、「商標法違反」で逮捕されるかもしれません。なお、商標権者が誰を訴えるかは自由で、商標法を違反する者を全て訴えなければならないことはありません。偽物を販売しているということは、このリスクを負っているというか、いつ捕まってもおかしくないことになります。なので、長年にわたって偽物の販売で利益を得てきた会社というのは考えにくいです。

海外でブランド品を安く買ったつもりの人が、実は偽物を買っていて税関で没収されたというニュースを聞いたことはないでしょうか。これは偽ブランドや海賊版などの知的財産侵害物品が、「特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品」として、関税法69条の11第1項第9号に規定されているからです。

一方で、自分は没収されなかったという人もいるでしょう。それは商標法で「業として(事業として)」と書かれているので、個人的または家庭的な場合が除かれる為です。それで、引っ掛からなかった可能性があります。

偽物を輸入した場合、10年以下の懲役、もしくは1,000万円以下の罰金、またはその両方が科せられるようです。平成29年1月~3月の知的財産侵害物品の差止実績(速報)によると、差止は6,952件で117,432点に及びます。仕出国で多いのは圧倒的に中国です。

知的財産ホームページの画像

税関では「FAKE ZERO PROJECT」が実施されていますが、並行輸入店や質屋でも同じような取り組みをしています。偽造品・不正商品の流通防止と排除を目指して発足した団体「日本流通自主管理協会(AACD)」や、質屋の販売商品から偽造ブランド品を排除することを目的として活動している団体「全国質屋ブランド品協会(ATF)」がそうです。

通販サイトにおける偽物

通販サイトの禁止事項にも、「他の出店者または第三者に対し、財産権(知的財産権を含む)の侵害、名誉・プライバシーの侵害、誹謗中傷、その他の不利益を与える行為またはそのおそれのある行為」と書かれていたります。出店者をチェックしているモールであればの話です。

一方で、世の中には既存の通販サイトを真似た「偽サイト」も存在します。そこの目的は偽物を売って利益を得る、商品は送らずに金だけ取る、ついでに個人情報を集めるといった酷いものになります。

こういった偽サイトの多くは、配送がEMS(国際スピード郵便)のみだったり、支払先の口座が個人名義だったり、サイトの日本語が怪しかったり、簡体字(中国で使っている漢字)が混ざっていたりします。会社概要の住所をGoogleマップで見ると建物が無いこともありますし、場合によっては存在しない住所ということもあります。

偽物に関する余談と並行輸入品

偽物に関してアレコレ書いてきましたが、少しでも参考になる箇所があれば幸いです。これから先は余談になりますが、「偽物」の関連キーワードをツールで調べたら、「偽物語」という小説関連のものが多く引っかかりました。

偽造品、偽作、ニセ物、贋作、まがい物、フェイク、ぱくり、もどき、バッタモンといった意味の「偽物」を調べたいのに、「偽物語」ばかり出てきて少々戸惑いました。もし、「偽物語」の「偽物」が出たら、言葉的に面倒な感じですね。