情報分析力チェックについて

「根拠となっているデータがおかしい」と、何らかの情報を得た際に思ったことはないでしょうか?

世の中、いろんな情報が飛び交っていますが、発信者にとって都合のいいデータをもとに、ミスリードするのは珍しくありません。うまくミスリードできた情報発信者は「しめしめ」といったところでしょうが、受け手は「騙された」となってしまいます。なので、ミスリードされないよう、情報を分析する練習をしようというのが、当ページの主旨になります。

このような問題を何と言ったらいいのか思いつかなかったので、取り敢えずリーディングスキルテストとしています。

リーディングスキルテスト

まずは、画像をよく見てください。次に、文章を読んで問いの答えを考えましょう。模範解答のようなものは、次項「リーディングスキルテストの解答サンプル」に書いています。

リピーター満足度調査

Q1.商品Aのリピーター満足度を調査をしたところ、98%の人が満足しているという結果が出ました。このデータの妥当性を考える際に、注意するポイントはどこでしょう?

電力使用量比較

Q2.電力会社から、電力の使用量を比較したレポートが届きました。あなたの家庭の消費量と、よく似た家庭が比べられています。このデータの妥当性を考える際に、注意するポイントはどこでしょう?

魚の佃煮

Q3.小魚の佃煮を小さな子供に出すことになりました。画像のようにキレイに並んだものを出す際の注意点は何でしょうか?

よく当たる宝くじ売り場

Q4.よく当たると評判の宝くじ売り場で、実際に当たり続けているとします。その要因は何でしょうか?

趣味と犯罪の関係

Q5.犯罪者の趣味がAであったという報道がありました。同じ趣味を持つ別の犯罪者の名前が出され、趣味と犯罪との関係性が示唆されています。この主張の妥当性を考える際に、注意するポイントはどこでしょう?

食料自給率

Q6.日本の食料自給率は39%というデータが提示されました。このデータを受けて話をする際に、注意するポイントはどこでしょう?

がんで死亡する率

Q7.日本人は、がん死亡率が高すぎる。A国は日本の半分以下なので、この国は異常だといったような話を聞いた際、注意しなくてはいけないポイントは何でしょう?

メラビアンの法則

Q8.メラビアンの法則によれば、話の内容よりも視覚情報が大事……といったようなことを聞いたとき、注意しなくてはいけないポイントは何でしょう?

情報の発信者

Q9.この「情報分析力チェック」をする上で、気を付けた方がいいポイントは何でしょう?

リーディングスキルテストの解答サンプル

Q1.「リピーター満足度調査」は、数値が高くて当たり前

リピーターは二回以上購入している人。つまり、商品を気に入っていて、満足しているから買っているのが大半です。購入者が満足しているのかを知りたいのであれば、リピーターにならなかった人のデータもないとダメです。

Q2.「よく似た家庭」の基準が明示されていない

「よく似た家庭」と書いていても、どこが似ているのかは明示されていません。電力消費はIHか否か、どんな家族構成か、部屋数は幾つか、契約アンペア数は幾つか等、その条件によって節約できる限界が違います。何を基準に比較しているのか不明な時点で、データとしては失格ではないでしょうか。

なお、この画像は環境省地球温暖化対策課が行う「平成29年度低炭素型の行動変容を促す情報発信(ナッジ)による家庭等の自発的対策推進事業」の一環として、全国から無作為で選ばれた30万世帯に送られた「ご家庭の省エネレポート」をもとに作成しています。ちなみに、レポートにあった問い合わせ先で確認したところ、この比較にはIHや家族構成等が考慮されておらず、同様の指摘を数多く受けているとのことでした。

Q3.串に刺さっていること

串に刺さっていないと、あんなにキレイに並ぶことはないでしょう。なので、小さな子供に出す際には、串を抜いてあげないと、喉に刺さる恐れがあります。

Q4.購入者が多いから

よく当たると評判になれば、そこで購入する人も増えます。ということは、売れた枚数が他より多いので、当たる確率も高まるわけです。1枚買うより、2枚買ったほうが確率は高まる。それと同じこと。

余談ですが、アメリカの宝くじで大金を手にした人の10年後を追跡調査した結果、ほとんどの人が当選前と変わない生活に戻っていたそうです。

Q5.同じ趣味を持つ犯罪者しか見ていない

同じ趣味を持っていても犯罪を犯していない人、その趣味を持っていない人たちにも目を向けないと、検証としては成り立ちません。たとえば、喫煙とガンの関係性を調べるなら、大量喫煙者と非喫煙を追跡調査します。ガンになった喫煙者だけを見ても、何の関係性も示せません。

ウィキペディアにある「DHMO」の項目を見れば、そのロジックのおかしさに気づくでしょう。

Q6.計算方法

何とか率という数字が出された場合、どういう計算で導き出された数字なのかを知るのが第一です。食料自給率の計算方法は、カロリーベースのものと、生産額ベースのものがあります。詳しい計算方法は他所を参考にしていただくとして、2014年の数値はカロリーベースが39%、生産額ベースは64%となっています。

なお、カロリーベースで計算する場合、畜産物は日本産であっても、飼料を自給していないと自給率には算入しません。国産牛であっても、餌が輸入品なら含めないという話。このカロリーベースを用いているのは日本くらい。きっと、数値を抑えた方が都合が良い人がいるのでしょう。

Q7.平均寿命

国立がん研究センター」の年齢による変化を見れば、がん死亡率は40代以降に高まっているのがわかります。A国が日本の半分以下の死亡率だったとしても、平均寿命が40代なら低くて当たり前なので、比較対象として適切ではないと言えるでしょう。

Q8.どんな研究の末に提唱された法則なのか

「メラビアンの法則」を導き出したと言われる実験は、「言語情報」「聴覚情報」「視覚情報」の3つの手段で、矛盾した情報を与えられたときに、どの情報を優先して受け止めるかというものでした。

具体例を挙げれば、「笑った顔」の男性が映っている画面から、「悲しい」という言葉が「怒った声」で伝わってきたとき、被験者は相手の感情は「怒ってる」「悲しい」「ご機嫌」のどれが一番印象に残るかというものです。

実験内容を知れば、これを根拠に「話の内容よりも視覚情報が大事」と言っていいのかと疑問に思うことでしょう。実際、アルバート・メラビアンは、そんな結論を出したわけではありません。

情報発信者にとって都合の良い数値が都合よく用いられ、それを出した過程を説明しないというのは、よくあるミスリードの手口です。よくよく調べれば標本数の分母がおかしかったり、パーセント表示なのに区切りのいい数字だったりします。

例えば、「お金持ちの80%が読んでいる本」という紹介があるとします。この場合、お金持ちの基準が明確にされていませんし、どれくらいの人に聞いたのかという分母も示されていません。

10人中8人でも80%、100人中80人でも80%ですが、人数で言えば72人も違います。仮に1,000人に聞いた場合の80%なら信憑性が増す気もしますが、その場合は800人が読んだことになります。ピッタリ800人が読んだなんて、考えられるでしょうか。そういう意味で、区切りのいい数字が割合として出されたら、分母が少ない可能性が高いと思ったほうがいいでしょう

統計的な裏付けには、必要な標本数がありますし、その対象者の選出方法も適切でなくてはいけません。何か質問をする場合は、その順番・内容・仕方など、守らなくてはいけない点があります。同じアンケートであっても、インターネット経由・固定電話・巣鴨での聞き込みでは、結果も違うでしょう。それは利用者層に差があるからです。こういった点も考慮に入れないと、何の根拠にもならないデータに説得されることになります。

話を戻します。そもそも、調査対象に例の本を配って読んでもらえば、そんな数値なんて幾らでも操作が可能です。にもかかわらず、「80%の金持ちが読んでいるなら、これを読めば自分も金持ちに」と思って買う人がいるわけです。これが先の情報を発信する人の狙いになります。

Q9.どんな人物が書いているのか、わからない

情報は誰が発信しているのかが大事です。同じ意見であっても、その道の権威と素人では、説得力に大きな差があることでしょう。そういう意味で、当サイトの文章は、どんな人物が書いているのか わからないという怪しさがあります。どんな人物かわかれば、さらに言うなら相手の立ち位置がわかれば、それを書いた者の真意がわかります。

例えば、やたらと「Aの危険性」を主張し、その都度「Bによる対策が必要だ」と書いている文章があったとします。これを書いたのがBを売る側だとしたら、その真意は「Bを売りたい」にあると言えます。

情報は、その情報を流すことで利益を得る者が広めようとします。なので、どんな人間が発信した情報なのかによって、その意味も違ってくることでしょう。その点で言えば、サイト管理者の情報が無い当サイトは、どんな狙いで書いたのか把握しづらいかと思います。

なので、最後に「このページの狙い」を書いておきます。端的に言えば、情報の見極め方を養うことにあります。言葉はアレですが、身内に騙されやすい人がいまして、同じような苦労をしている人がいるかと思い、それとなく「情報の見極めって大事だよ」と言えるようなネタを。そんな感じでしょうか。自分への戒めでもありますが。